お山参詣と岩木山登山【1985/9/15訪問】

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岩木山
弘前城より岩木山をのぞむ(1986年5月撮影)

 岩木山は青森県西部にそびえる標高1,625mの火山で、青森県最高峰の山です。その山容は美しく富士山にも似ているところから津軽富士とも呼ばれており、日本100名山にも選定されています。また古くから山岳信仰の対象ともされており、その代表的な行事が今回ご紹介する「お山参詣」です。

 お山参詣は、五穀豊穣や家内安全を祈願して、旧歴8月1日前夜に近くの民家に泊まり、深夜に集団で山頂に登山してご来光を仰ぐというものです。1984年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。今回、岩木山登山を兼ねて、このお山参詣を見に行きました。私が訪問したのは1985年の秋ですので、前の年に国の重要無形民俗文化財に指定されたことになります。当時はそのことを知りませんでした。

弘前市内禅林街
弘前市内禅林街

 旅の起点は青森西部にある弘前市です。弘前市は、弘前藩の城下町として古くから栄え、今でも青森県西部地方の中核都市となっています。またリンゴの生産量が日本一としても知られています。

 その日、例により急行八甲田号で早朝に青森駅に着いた後、バスで弘前市に向かい、弘前城や禅林街など弘前市内を散策しました。弘前城は桜の名所としても知られ、丁度、GWの頃に満開の見ごろを迎えるので、GWの人出ランキングではいつも上位にランクされています。また禅林街には曹洞宗のお寺がなんと33近く点在しています。1つの宗派でこれだけ多くの寺院が集まっているところは、全国的にも珍しいようです。

嶽温泉
嶽温泉(1985年4月撮影)

 その日は、弘前駅からバスに乗り、約50分のところにある岩木山麓の嶽温泉の民宿に泊まりました。お山参詣の最中でしたので、まさか宿が取れるとは思っていませんでした。ただ当時の旅日誌を見ると、なんと「50代くらいの中年男性と相部屋」と書かれています。当時、私は宿といえばユースホステルを愛用していました。ご存知の通り、ユースホステルは相部屋が基本でしたので、相部屋には違和感はありませんでしたが、今から思えば民宿で相部屋とは考えられない経験をしたものです(民宿というのは、今の言葉では「民泊」そのものです)。きっとお山参詣のため、どこも宿が一杯だったのでしょう。

 ちなみにこの宿は石鹸の泡が立たないことで有名のようでした。また食事も大変に豪勢なものでした。 

お山参詣(岩木山神社近辺)
お山参詣(岩木山神社近辺)

 翌日は近くにある岩木山神社までバスで戻り、そこでお山参詣を見学しました。白装束に身を包んだ多くの信者が、百本以上の幟を掲げて歩く様には圧倒されました。

 お山参詣は以下の通り、3日間に渡り行われます。(岩木山神社HPより引用)

・初日:向山(むかいやま)多くの人々が岩木山神社の参道を登って参詣を行う

・2日目:宵山(よいやま)参拝者たちが、白装束に身を包み、囃子に合わせて御幣や多彩な幟を掲げて岩木山神社を目指す。

・3日目:朔日山(ついたちやま)旧暦8月1日にあたり、参拝者たちは、未明から一斉に登り始め、山頂付近でご来光を拝む。

 当日は3日間実施されることは把握していませんでした。私が岩木山神社でお山参詣を見学して岩木山に登山したのが1985年の9月15日です。当時のカレンダーによると、その日は旧暦の8月1日にあたります。従い、私は3日目の朔日山(ついたちやま)を見たことになります。

  さて岩木山神社で参拝してお山参詣を見学した後は、待望の岩木山登山です。実は岩木山には岩木山スカイラインが8合目まで通っており、バス路線もあります。さらに9合目までリフトがあるので、楽に頂上に到達することができますが、もちろんお山参詣の当日にバスを使って登山するような無粋なことはしません。岩木山神社の表登山口から登山を開始しました。標高も決して高くないこともあり、登山そのものは比較的楽でした。当日は「3日目朔日山(ついたちやま)」であったためか、麓の岩木山神社同様、途中の登山道でも多くの白装束に身を包んだ方に出会いました。皆さん、何か呪文のようなものを唱えながら歩いていました。その時点では何を言っているのか聞き取れませんでしたが、後で調べたところによると幾つかの呪文があるようです。代表的なものは「懺悔懺悔サイギサイギサイギ)/過去の罪過を悔い改め神仏に告げこれを謝す」のようです(岩木山神社のHPより)

岩木山登山口
岩木山登山口
岩木山登山道
岩木山登山道
岩木山山頂
岩木山山頂

 帰りは少しサボらせて頂きバスを使い下山しました。下山後は、嶽温泉でゆっくりして、その日は弘前駅前の宿で一泊しました。翌日は、再度弘前市内を観光巡りして、帰路に着きました。

 

 国の重要無形民俗文化財であるお山参詣を見学しながら、津軽地方の信仰の山である岩木山に登り、帰りには麓の温泉でゆっくりする、なんと贅沢な1日だったのでしょうか。十分に満足をしているのですが、今、本稿を書いていて大変に惜しいことをしたことに気付きました。私が前泊したのは旧暦8月1日でしたので、なんとその明け方に岩木山への集団登山が実施されていたのです。そうです。見知らぬ中年の方と相部屋になるくらいであれば、夜中に宿を出て、岩木山登山に同行して、ご来光を仰げばよかったのでした。

 今でこそインターネットが普及して、遠隔地でも情報を調べることが出来ますが、当時はもちろんインターネットもなく、私が事前調査を行った方法は、直前に地元の観光協会に電話して、お山参詣の情報を聞いた程度です。今と昔では情報量に圧倒的な差があります。

 一方、もし当日、夜を徹して岩木山登山に同行出来たとしても、実際どうしていたかは、若干微妙です。なにしろその前の日に、急行八甲田で上野から12時間かけて着いたばかりです。さらに次の日の夜に深夜登山をしたかどうか・・・。なおそういう思いでさらにHP等を調べてみると、「レッツウォーク」という体験イベントもあるようです(2021年はコロナ禍により中止)。これに便乗する手はありかなと思います。

 

 是非、皆さんもこのお山参詣に参加され、信仰の山に登られてみてはいかがでしょうか

 


<関連情報>

①旅程※時刻は訪問当日の時刻表です。もし訪れられる場合は最新の時刻表をご参照頂きますようお願いします。

【1985/9/13】上野(21:14)=(急行八甲田)=青森(9:08)

【1985/9/14】青森(11:30)=(弘南バス)=弘前(13:00)~弘前市内観光

        弘前駅(15:10)=(弘南バス)=嶽温泉(16:00) (泊)

【1985/9/15】嶽温泉(7:40)=(弘南バス)=岩木山神社(7:50)~お山参詣見学

        岩木山神社(9:00頃)~岩木山登山開始~岩木山山頂(13:30頃)

 

弘前市の四季

弘前城桜祭り

弘前城桜祭り

弘前公園で開催される桜祭り。全国でも屈指の桜名所として知られ、日本さくら名所100選(公益財団法人日本さくらの会)にも選定されている。ソメイヨシノ、シダレザクラなど約2600本の桜が咲く。丁度、GWの頃に見頃を迎えるため、GWの観光客数で、毎年上位を占める。弘前駅から徒歩22分。

弘前ねぷた祭り

弘前ねぷた祭り

毎年8月1日~7日にかけて開催される青森県を代表する夏祭り。青森のねぶた祭りの「人形ねぶた」と違い、「扇ねぷた」が多い。掛け声もねぶた祭りの「ラッセラー」ではなく、「ヤーヤドー」とかける。「ねぷた」という言葉は津軽弁の「ねぷて(眠たい)」からきているとされる。