阿仁マタギクマ牧場(くまくま園)~東北に残された最後のクマ牧場(1991年4月)

<カテゴリ:鉄道、温泉、自然>


 秋田県の北部に位置する森吉山は、日本百名山ではありませんが、高山植物が多く花の百名山としても知られる名峰です。自然豊かな山で、ツキノワグマやニホンカモシカなどが数多く生息しています。最近ではスキー場などの開発が進んできましたが、それでも豊かな自然が残されています。

八幡平クマ牧場のヒグマ
八幡平クマ牧場のヒグマ

 その森吉山の懐に抱かれるように、今回ご紹介するクマ牧場があります。かつて東北地方にはクマ牧場が2つ存在していました。1つが今回ご紹介する阿仁マタギクマ牧場(注:2014年に「くまくま園」としてリニューアル」)で、もう1つが同じ秋田県の八幡平にあったクマ牧場です。ただ記憶に新しいところで、2012年に八幡平のクマ牧場で飼育されていた熊6頭が脱走して、飼育員2名が死亡するという痛ましい事故がありました。それがきっかけで、八幡平クマ牧場は閉園となり、東北地方に現存するクマ牧場は、この阿仁マタギクマ牧場だけになってしまいました。八幡平クマ牧場で飼われていたクマは閉園後、受け入れ先探しが難航していましたが、ここ阿仁マタギクマ牧場への全頭の受け入れが決まり、2014年7月に「くまくま園」としてリニューアルオープンしました。

 実は私は以前からクマに対して、異常とも言える関心と恐怖と愛着を持っていました。あまり信じてもらえないかもしれませんが、以前にクマに遭遇したことがあるのです。それは岩手県の安比から八幡平への登山道です。その時の恐怖といったら言葉に表せません。私の取った行動については、別の機会に触れたいと思います。一方、愛着については、先ほどご紹介した八幡平クマ牧場に行った時に見た愛らしい姿です。ここの牧場はヒグマが中心でしたが、ヒグマというと人間をも襲う獰猛な動物というイメージがありました。ところがそこでのヒグマの愛らしい姿を見て、そのイメージがすっかり変わりました。もちろんクマに対する警戒感と畏敬の念は持ち続けています。

阿仁マタギ駅
秋田内陸縦貫鉄道阿仁マタギ駅

 今回、東北地方で唯一残っているクマ牧場とその周辺スポットに出かけました。旅の起点は、秋田県の角館と鷹の巣を結ぶ秋田内陸縦貫鉄道の阿仁マタギ駅です。

 この駅名にもなっている「マタギ」は、古来より山で主にクマなどの狩猟を生業としている人のことを指します。特にここ秋田県阿仁地方は「マタギ」発祥の地と言われているようです(マタギについては別ページでも少しご紹介していますので、ご参照頂ければ幸いです)。

 これも余談になりますが、この秋田内陸縦貫鉄道は、かつて国鉄時代には1本の路線としてではなく、北部を走る阿仁合線と南部を走る角館線に分断されていました。第3セクターになった後、1989年に沿線の住民の願いがかない、南北の路線が繋がり全線が開通しました。今回の最寄り駅となる阿仁マタギ駅は、全線が開通した際に、旧阿仁合線と角館線を結ぶ路線上に新しく出来た駅です。従い、この開通がなかったら、電車と徒歩ではクマ牧場には行くことができなかったことになります。

阿仁マタギクマ牧場(くまくま園)
阿仁マタギクマ牧場(くまくま園)

 さて阿仁マタギ駅から2km、徒歩で約25分のところに阿仁マタギクマ牧場があります。八幡平のクマ牧場はヒグマが中心でしたが、ここのクマ牧場は、主に本州に生息するツキノワグマが中心です。胸の辺りに三日月型の白い斑紋があるのが特色で、漢字では「月輪熊」と書きます。また園内では、クマに与えるための餌も販売されています。エサを投げる仕草をするだけでクマが近づいてきて、自分に投げろとばりに胸をたたく姿や寝ころびながらアピールする姿はほほえましいの一言です。列車の時刻の都合上、当初の滞在時間は30分程度でしたが、その仕草の可愛さのために、列車の時刻のことはすっかり忘れてしまい、童心に返って2hr近くもクマの姿を見ていました。

阿仁マタギクマ牧場(くまくま園)
阿仁マタギクマ牧場(くまくま園)

  ここでのクマの愛らしい仕草を見ていると、クマに対する恐怖心がなくなると同時に、クマ牧場といっても基本は動物園であり、餌付けされてしまったクマは野生に戻ることはないのだろうなあと複雑な思いにかられてしまいました。

 さてこのクマ牧場を見終えた後は、周辺の散策です。周辺には打当温泉という少しひなびた温泉と、マタギの歴史などを説明するマタギ資料館があります。ここで時間を過ごすのも楽しいものです(関連情報ご参照)。

阿仁マタギクマ牧場(くまくま園)
阿仁マタギクマ牧場(くまくま園)

  帰りは阿仁マタギ駅までの2kmの道のりです。もちろん徒歩で戻ることにしましたが、大変に貴重な経験をしました。駅への道を歩いていると前からパトカ―が近づいてきて、私の前で止まるではありませんか。少し身構えてしまいましたが、なんと駅まで送ろうかという申し出でした。基本、私の旅のルールは「車を使わずに歩く」というものですので、少し躊躇しましたが、パトカーに逆ヒッチされることなど、滅多にない経験と思い、乗せてもらうことにしました。また旅のルールでは、「理由によっては、片道のみはタクシー等の車を使ってもよい」としています。行きは歩きでしたので、帰りはパトカーに乗るのもまあ許容範囲かなと勝手に解釈しました。パトカーでの道中はわずか5分程度でしたが、周辺の見所など、楽しいひと時を過ごすことが出来ました。パトカーにヒッチされるなど、秋田の方の人情に感謝です。

 鉄道、温泉、自然、人情をたっぷり味わうことの出来た旅でした。皆さんも東北地方で唯一残っている、このクマ牧場に足を運ばれることをお勧めします。

 

 以下の写真は、八幡平クマ牧場での餌を求めるヒグマの愛らしい姿です。右の写真の中に寝そべっているヒグマがいますが、もちろん寝ているわけではなく、仰向けになって全身を使って餌を要求している姿です(1988/9/23撮影)。

阿仁マタギ熊牧場
阿仁マタギ熊牧場
阿仁マタギ熊牧場


<関連情報>(1991/4/29)

①旅程※時刻は訪問当日の時刻表です。もし訪れられる場合は最新の時刻表をご参照頂きますようお願いします。

【1991/4/29】※前夜泊

・角館(8:53)=(秋田内陸縦貫鉄道)=阿仁マタギ(10:47)~(徒歩)~阿仁マタギクマ牧場(11:05)~クマ牧場、打当温泉、マタギ資料館

・阿仁マタギクマ牧場(14:20)~(徒歩⇒途中パトカーに拾われる)~阿仁マタギ駅(14:35)

 

是非、立ち寄りたい周辺のお勧めスポット(もちろん鉄道とバスと徒歩で)   

マタギ資料館

マタギ資料館(1991年撮影)

マタギが使用した道具や衣装、マタギの風習などマタギに関する資料が数多く展示されている。狩りをした熊の薫製も展示されている。阿仁マタギ駅から徒歩15分(阿仁マタギクマ牧場に隣接されている)。

打当温泉

打当温泉(1991年撮影)

マタギ資料館に隣接された純弱食塩泉の温泉。寒い季節でもほかほかと温まるという評判。食事、宿泊も可能。阿仁マタギ駅から徒歩15分

 


③阿仁マタギくま牧場(くまくま園)