三崎峠と秘境駅~奥の細道の難所を歩く~(訪問日:23年8月9日)

<カテゴリ:鉄道、自然、文化・遺産>


 新潟県から秋田県を経て青森県に至る日本海沿いのメインルートとして国道7号線がありますが、丁度、山形県と秋田県の境に三崎峠という小さな峠があります。古来より羽州街道の中でも随一の難所と呼ばれ、有耶無耶の関が置かれ人々の往来の取り締まりが行われてきました。

三崎峠
三崎峠入口

  そしてあの松尾芭蕉が奥の細道として歩いた道でもあります。少し突き出た小さな半島のような形をしており、鳥海山の繰り返される噴火によって溶岩が固まり、現在の地形が形成されたとされています。またかつては、庄内藩、久保田藩が戊辰戦争で争った三崎山古戦場地としても知られています。

 かねてよりそのような歴史と自然に満ち溢れた三崎峠を歩いてみたいと思っていましたが、それが実現したのが、2023年の夏でした。そして同じくかねてより訪れたいと思っていた秘境駅(脚注ご参照)も訪れることが出来ました。今回は秘境駅と松尾芭蕉も歩いたという三崎峠についてご紹介したいと思います。

 なおこの三崎峠は丁度山形県と秋田県の境に位置するため、三崎峠をご紹介するにあたり、秋田県に分類すべきか山形県に分類すべきか迷いましたが、歩道入り口にある看板(後述)が秋田県にかほ市の名前で出されていたため、「秋田を歩く」として紹介させて頂きます。

三崎峠周辺

 さてこの三崎峠を通る道ですが、事前の調査の段階で幾つかの道があることがわかり、かなり調査に時間を要してしまいました。そしてわかったことは、図の通り、どうも4本の道があるということです。現在の幹線道路である国道7号線、旧国道、古道(奥の細道)、三崎公園遊歩道の4本です。今回は奥の細道でもあった古道(奥の細道)を歩くことを予定していましたが、三崎公園遊歩道を何か所にもわたり交差しており、また古道の標識もあまり整備されていなかったので、非常に迷った箇所が何か所かありました。ただ歩いていると迷った時の秘訣が自然にわかってきたので、後でご紹介しましょう。

女鹿駅時刻表
女鹿駅時刻表(上り列車は1日に2本しかない!)

三崎峠を歩く 

 旅の起点ですが、これが今回一番の難問でした。アクセスガイドによると羽越本線の「女鹿駅」が最寄りの駅ですが、この駅は知る人ぞ知る秘境駅(注:脚注ご参照)なのです。写真をご覧頂ければと思いますが、下り列車は1日に4本(しかも昼間は1本だけ)、上りに至ってはなんと朝一に2本しか止まらないのです。従って女鹿駅で下車⇒三崎峠⇒女鹿駅経由で戻るというルートが取れないのです。あえて言えば、秋田方面から上りの7:07で女鹿駅を降りて、三崎峠往復、下りの12:53で秋田方面に戻るという手がありますが、上りの7:07にはどうも間にあいそうにありません。

吹浦駅
吹浦駅

 止む得ず行きは女鹿駅の1つ手前の吹浦駅でタクシーを使い三崎峠まで行き、三崎峠を歩いた後は女鹿駅まで歩いて戻り、昼間に1本しか停車しない下り列車に乗り秋田方面に向かうことにしました。私の旅のルールでも、止む得ない事情に限り片道のみタクシーを使うことを良しとしています。従い、ここでは旅の起点は羽越本線の吹浦駅とさせてもらいます。

 ちなみに余談ではありますが、1988年に初めて吹浦駅に降りた時のメモを見ると、「この駅は女性の職員が多いようだ」と書かれていました。多いということは2人以上だったのでしょうか。もちろん現在は無人駅です。時代の流れを感じざるを得ません。

古道入口(熊出没注意の看板)
古道入口(熊出没注意の看板)

 当日は、吹浦駅からタクシーを使い三崎峠古道口まで行き、そこからいよいよ古道歩きを始めようとしたのですが、早速、出発地点で緊張が走りました。なんとそこには「熊出没注意」の看板があったのです(先ほどご紹介した秋田県にかほ市の看板です)。どうも数日前に周辺に熊が出没したようです。まさか天下の国道7号線沿いに熊が出るとは思わず、いつも登山をする時に持ち歩いているクマよけの鈴を持ってきていませんでした。本州に生息するツキノワグマは、元来が臆病で、基本、人には襲ってこないのですが、今年(2023年)に入り各所(特に青森、岩手、秋田の東北3県)でケガ人がでています。生態系の変化が発生しているのでしょうか。一応の注意を払いながら歩き始めることにしました。

大師堂
大師堂

 古道自体は多少のアップダウンはありましたが、一部を除き(後述ご参照)極めて快適な道でした。ところどころで日本海の雄大な景色や、大師堂(三崎神社)、一里塚といった史跡、三崎灯台などもあり楽しく歩くことができました。ちなみに大師堂は慈覚大師によって建てられたと言われています。この慈覚大師というのは、東北各地を行脚し、山寺や松島の瑞巌寺を始め多くのお寺を作ったことでも知られています。また一里塚とは、ご存知の通り、江戸時代に主要街道に一里おきに作られた塚のことです。

一里塚
一里塚

 実は道中、ずっと悩まされていたことが2点ほどありました。

 まず第1に古道沿いのいたるところに蜘蛛の巣が張り巡らされていて、それを除けながら(場合によっては払いのけながら)歩いたことです。それもかなりの蜘蛛の巣の量でした。山道で蜘蛛の巣があることはよくあることですが、これはすなわち最近この道を歩いた人がいなかったということになります。最初に見た「熊出没注意」の看板が頭をよぎり、若干、不安な気持ちになりました。

古道(旧街道)と遊歩道分岐点
古道(旧街道)と遊歩道分岐点

 そしていたるところで三崎公園遊歩道と交差していて、若干、道がわかりづらかったことです。「旧街道(古道=奥の細道のことです)」と案内されているところもありましたが、大方は案内板もない箇所が多かったです。その時に考えたのは、古道は文字通り江戸時代からの道、遊歩道は最近整備された道、すなわち分岐点で迷った時には整備されていない方が古道に違いないと思い、その感で歩きました。どうも正解だったようで、その方法で行くことにより終点まで辿りつくことができました。

古道入口
古道入口

 歩行時間として1時間弱、予想より大幅に早くゴールに到達することができました。少し時間の余裕があったので、先ほどご紹介した道の1つである旧国道を使い女鹿駅まで歩こうかと思いましたが、万が一、道に迷ったりすると女鹿駅での昼間1本しか止まらない普通列車に乗り遅れると思い、ここは安全策を取り、7号線沿いに女鹿駅に向かうことにしました。

国道沿いにある女鹿駅入り口の標識
国道沿いにある女鹿駅入り口の標識

秘境駅に向かう  

 三崎峠から歩くこと約40分、たどり着いた女鹿駅ですが、確かに周りには何もない駅ではありましたが、国道からわずか約200mのところにあり、他の秘境駅と比較しても秘境度の低い秘境駅ではないかと思いました。

 実際、女鹿駅での待ち時間の間、ひっきりなしに車で訪れる方が多かったです。皆さん、駅前で写真を撮った後は颯爽と次の目的地に向かっていました。恐らく羽越本線の他の秘境駅(脚注ご参照)に向かったものと思われます。もちろん車で秘境駅を訪れることは悪いことではありませんが、やはり鉄道の秘境駅ですので、時刻表と睨みっこしながら鉄道を使って訪れた方が、より達成感があるのになあと思いながら駅舎で待っていると、定刻通り下りの普通列車が到着しました。予定通り下り列車に乗り次の目的地に向かったのです。

女鹿駅
女鹿駅

 当日は(秘境駅ファン以外)誰に会うこともなく、松尾芭蕉も歩いた奥の細道の難所、雄大な日本海、史跡、秘境駅と見所満載の1日でした。

 実は正確に言うと、当日、古道入口にアイスクリームを売っている地元の方がいらっしゃって、少しお話させて頂きました。どうも土日に限り男鹿から来られているようで、私が出向いた日は平日でしたが特別に来られたようです。その日は庄内地方が38度近い猛暑日だったということもあり、歩き終えた後に食べましたが、大変に美味しかったです。また熊出没の件もご存知のようでした。

 是非、皆さんも歴史と自然を満喫できる奥の細道の難所を一度訪れてみては如何でしょうか。もし鉄道と徒歩で訪れられるのであれば、実は最大の難問は鉄道ダイヤです。時刻表と睨めっこをしながら計画を立てるのも楽しいと思います。


<参考情報>

①秘境駅:牛山隆信氏「秘境駅ランキング2023年度版」より引用。羽越本線では、女鹿駅が25位、折渡駅が44位、桂根駅が86位にランキングされている

②是非、立ち寄りたい周辺のお勧めスポット(もちろん鉄道とバスと徒歩で) 

浄土ヶ浜

十六羅漢(1988年撮影)

吹浦海禅寺の寛海和尚が漁師の供養と海上の安全を祈願して5年の歳月をかけて作った。吹浦駅より徒歩15分

水産科学博物館

白瀬南極探検記念館(1991年撮影)

地元金浦町(現にかほ市)出身の南極探検家白瀬矗(のぶ)の業績を記念するために作られた。設計は建築家である黒川紀章。金浦駅より徒歩20分


②三崎峠