地図から消えた秘湯~秋田八幡平~


 秋田県と岩手県にまたがる八幡平は、私の大変にお気に入りの山の1つです。

①まず鉄道と車と徒歩しかアクセス手段を持たない私にとって、盛岡、田沢湖、十和田南(花輪)からとバス路線があり非常に便利であること。

②かなり開発はされてきたとはいえ、まだまだ自然が残されており、変化に富んだ登山ルートがあること、動植物も多く、随所にお花畑があること。ちなみに私が初めてツキノワグマに遭遇したのも八幡平(安比口)でした。

③そして温泉の宝庫であることです。

 特に秋田県側には昔ながらのひなびた温泉が多く、八幡平登山の帰りに立寄り湯としてお世話になりました。今回、「秋田を歩く」としてこれらの秋田県側の八幡平温泉郷を6箇所ほどご紹介しようと思い、原稿を作成していたところ、愕然としました。なんと6箇所のうち5箇所までが既になくなっているのです。

紅葉の八幡平
紅葉の八幡平

 私がここでご紹介するスポットは、念のため、少なくとも①現在でも目的地が存在していること、②そして今でも車を使わなくても目的地に行ける手段があることを確認するようにしています。ただ特に青森県、秋田県などは、私が東北を通い始めた初期の頃(30年前~40年前)に訪れたということもあり、既に目的地自体がなくなっていたり、バス路線もしくは鉄道が廃止されていたりして、ここでご紹介する箇所が少なくなりつつあります。

 今回、改めて調べたところ、八幡平温泉郷もかなりの数がなくなっているようでした。そこで、「秋田を歩く」として書き始めていた八幡平温泉郷を、「旅の記憶」のカテゴリに変更して残すことにしました。

赤川温泉
赤川温泉祭り

赤川温泉

 赤川温泉は東北の温泉によくある混浴の湯治場なのですが、ここの温泉は、なんと脱衣場も男女同じなのです。私はこれに似た温泉を最近見掛けました。福島県の喜多方市にある熱塩温泉の公衆浴場で、ここも脱衣場が男女同じでした。ただ湯船が男女別だったため正確には混浴ではないかもしれません。その意味で脱衣場も湯船も男女同じという混浴はここ赤川温泉しか経験したことがありません。最初は少し戸惑ってしまいましたが、この温泉は湯治用温泉ということもあり、お年寄りが多く、あまり脱衣場が同じであることを気にする感じでもありませんでした。東北人のおおらかなところなのか、私が気にし過ぎているのか・・・。

 いろいろお話をしてみると、皆さん口を揃えて、ここ赤川温泉は日本一の温泉だと言われていました。私が訪問した時は、丁度、赤川温泉祭りをしていました。写真はその時のものです。いかにも湯治場らしい雰囲気を残した素晴らしい温泉でしたが、1997年5月、次にご紹介する澄川温泉の裏山で地滑りが発生し、宿が全壊となったようです。全然、知りませんでした。大変に残念です。

 

澄川温泉
澄川温泉(1986年撮影)

澄川温泉 

 ここの温泉も湯治用の温泉でしたが、先にご紹介した赤川温泉と異なり湯治以外の宿泊も可能な温泉旅館でした。また露天風呂もありました。もちろん混浴です(ただし脱衣場は男女別でした)。

 また温泉の横から八幡平温泉郷の1つである大沼温泉に抜ける山道があり、よく大沼温泉までは歩いたものです。非常に気持ちのいい山道でした。あとで知ったことですが、この山道は八幡平アスピーテラインという八幡平を横断する有料道路ができるまでは、八幡平へ抜ける登山コースだったようです。

 ただ大変に残念なことに、1997年、赤川温泉と同じく澄川温泉の裏山で地滑りが発生し、宿が全壊となったようです。全然、知りませんでした。大変に残念です。ただ地滑り、土石流により温泉は埋もれてしまいましたが、災害の規模の割には奇跡的に人的被害がなかったようです。せめてもの救いでした。

 

銭川温泉
銭川温泉(1986年撮影)

銭川温泉

 銭川温泉は、先にご紹介した赤川温泉、澄川温泉から少し離れた国道341号線沿いを下ったところにありました。ここも澄川温泉と同様、湯治だけではなく一般の宿泊客も宿泊できる温泉旅館でした。

 この銭川温泉ですが、私の温泉歴では入ったことでカウントしていますが、実は湯船には入りませんでした。正確にいえば「入れませんでした」。というのは湯船が非常に熱く、とても入ることができなかったのです。最初に行った時がたまたま熱かったのか、翌年、もう1度訪れましたが、やはり熱くて入ることができませんでした。熱いお湯は好きな方なのですが、とにかくここのお湯は入ることができないほど熱かったです。平気な顔で湯船に入られていたご老人がいたので、なにかコツでもあるのかとよほどお聞きしようかと思いましたが、聞くのを躊躇ってしまいました。後で調べてみたところ、43°くらいのようでした。温泉の中では比較的、熱い分類ですが、それでも入れないということはなさそうです。

 なおここの銭川温泉は最近まで開業していたようですが、2021年3月に閉館となったようです。

 

新鳩の湯温泉
新鳩の湯温泉(1988年撮影)

新鳩の湯温泉

 新鳩の湯温泉は、秋田県を代表する名湯玉川温泉から国道341号線を田沢湖に向かう途中にある温泉です。実はこの八幡平から玉川温泉を経由して田沢湖に通じるバス路線は、非常にお気に入りのコースで、何度か乗りました。そのたびにこの新鳩の湯温泉に立ち寄ったものです。温泉は、国道からは橋を渡ったところにあり、国道に面しているにも関わらず、非常に鄙びた温泉で、私が訪問した際は何時も誰1人もおらず、貸し切り状態でした。また典型的な硫黄泉のため、バスを降りた時から硫黄泉独特の卵臭が漂っていました。

 温泉は露天風呂はなく、男女部の内湯がある小さな温泉ですが、大変に心休まる温泉でした。ただ大変に残念なことに2007年に閉館となったようです。

 

若乃湯温泉
若乃湯温泉(1988年撮影)

若乃湯温泉

 この若乃湯温泉の消息を調べるのが一番大変でした。右の写真をご覧頂ければおわかりの通り、確かに若乃湯温泉という名前の温泉はありました。ところがこれまでご紹介した温泉は、廃業になったにも関わらず、比較的容易にネット等で調べることが出来たのですが、ここ若乃湯だけはどうしてもネットでヒットしませんでした。恐らく廃業になったのかなとは思いつつ、思い切って地元(鹿角市)の観光協会に聞いてみました。電話応対頂いた職員の方も、すぐにはわからなかったようでしたが、しばらく調べて頂いた結果、やはり廃業となったというお答えでした。

 この温泉は、以前は近くに八幡平クマ牧場があり、立ち寄り湯として利用しました(ちなみに八幡平クマ牧場は既に廃業となっています。クマ牧場については別ページでご紹介していますので、ご参照頂ければと思います)。またここの温泉の最寄りのバス停が「長者の湯」という名前であったため、何時もバスから降車する際、気のせいか乗客の方がざわついていたような気がしました。まるで「まあお若いのに(注:30年前のことです。念のため)長者の湯とは?」と言われているようで、気恥ずかしい思いをしたことを覚えています(もちろんこのバス停は今はありません)。

 上記の通り、観光協会に確認した結果、廃業したことは確かですが、何時、廃業したのかは不明です。


<関連情報>

①「ふけの湯」:現存する八幡平温泉郷の中でお勧めの温泉

 上記の通り多くの名湯が廃業となる中、現存する温泉で、是非、お勧めの温泉がこの「ふけの湯」です。八幡平に登った時には、山小屋に泊まらない時の常宿の1つにしていました。子宝の湯としても知られており、金精様が祀られています。男女別の内湯や混浴露天風呂などがあります(下の写真は1989年に宿泊した際の写真です) 。むき出しになった大地から蒸気が噴出している様子は迫力満点でした。

ふけの湯
ふけの湯
ふけの湯