峯の浦と垂水遺跡~もう1つの山寺を歩く~ (訪問日:24年3月)
<カテゴリ:文化・遺産>
松尾芭蕉が奥の細道の中で詠んだ「閑さ(しずかさ)や岩にしみ入る蝉の声」であまりにも有名な山形市の立石寺(通称:山寺)は、山形県を代表する観光地で、いつも多くの観光客で賑わっています。シーズンの土日などは参道に行列が出来るほどの賑わいとなっています。ところがその山寺を少し奥に入ったところに「峯の浦」という隠れたスポットがあることをご存知でしょうか。ガイドによっては、「もう1つの山寺」、「裏山寺」と紹介されています。「裏」という言葉には少し「暗」のイメージがあるので、ここでは「もう1つの山寺」と称して、この隠れた名所「峯の浦と垂水(たるみず)遺跡」をご紹介させて頂きたいと思います。訪れる人も少なく静かな旅を楽しむことができます。
この峯の浦と垂水遺跡は、山寺を開山した慈覚大師円仁が山寺の開基に先立つこと830年に垂水遺跡の荘厳な景観に心を惹かれ、山寺開基の構想を練った場所と言われております。その後、なんと1千年以上にわたり僧侶などがこのあたりで修業をしてきました。
これらの地は散策路として整備されており、大きくは、①コースの入り口にある千手院、②水の浸食により形成された蜂の巣のようにたくさんの穴がある巨大な岸壁を中心とした「垂水(たるみず)遺跡」、③「白岩七岩」と呼ばれる奇岩群、④多くの僧侶が修行したとされる修験道、⑤「峯の浦本院跡」から成ります。スタート地点となる「千手院」から1時間強で廻ることができます(もちろん徒歩となります)。実際に歩いた時の状況をご紹介させて頂きます。
千手院
スタート地点となる千手院は、JR仙山線の山寺駅から山寺の参道を左手に見ながら徒歩15分のところにあります。ここの鳥居は願掛をすることが出来ると言われているそうで、鳥居の柱に抱きつき「恋愛」「金運」を願うとかなうとのことです。ちなみに両方願ってはダメと言われています。
その鳥居をくぐるとなんと驚くことに仙山線の線路にでくわします。もちろん踏切などないので、注意して渡る必要があります。線路を渡ると最上三十三観音第二番所である千手院があります。千手院観音に祀られている本尊には、慈覚大師の作とされている木造千手観音菩薩像がありますが、現在は公開されていないので拝むことはできませんでした。
そしてここの千手院の裏からいよいよ垂水遺跡への山道を登ることになります。
垂水遺跡
千手院の裏手から山道を歩くこと約15分、垂水遺跡に到達します。ここは水の浸食によって形成された蜂の巣状の巨大な岸壁がそびえたっており、山寺を開山した慈覚大師円仁はこの荘厳な景観に心を惹かれ、山寺開基の構想を練ったと言われています。山形随一のパワースポットと言えると思います。蜂の巣のように穴が開いた岩は凝灰岩のため、もろく柔らかく穴が開いたようです。そしてここでは1900年代初期の頃までなんと1200年もの間、苦行が行われたとされています。
遺跡は横一列に並ぶ形で、古峯神社、稲荷神社、垂水不動尊、円仁宿跡、大日堂跡が点在していますが、その規模があまりの壮大なため、私の稚拙な撮影技術ではその全容をカメラに収めることができませんでした。この異様とも思われる景観には円仁ならずとも心を揺り動かされること間違いありません。
なお古峯神社の鳥居と稲荷神社は巨岩の上にあるため、歩道からは少し見えにくいところにあるので、見落としがないようにする必要があります。私が出向いた時は、岩の上から降りてくる人がいたので、そこに神社があることが判りました。
なお慈覚大師円仁はこの地を霊域とするため、当時地主だった漁師に殺生をやめてほしいという交渉を行ったようです。そしてこのこの交渉はうまく行ったようで、その時に対峙した場所が山寺駅近くにある「対面石」だったと言われています(脚注ご参照)。
白岩七岩
垂水遺跡をさらに進むと城岩七岩と呼ばれる7つの岩(弓張岩、盾岩、猿岩、鏡岩、塩岩、砦岩、冑岩)が続きます。実は垂水遺跡からこの奇岩群に向かう道が途中で三差路になっており、私が出向いた時には間違えて下山する道に行ってしまいました。白岩七岩はすぐに出くわすと聞いていたので、間違いに気づき引き返しましたが、一応の注意が必要です。
さてこれらの岩は城壁のように連なっており、遠くから見ると山城の様相をなすと言われています。それぞれの岩には歩道から分かれていて上に立つことはできます(注:一部立ち入りができない岩もあり)。ガイドなどを見ると、この岩に座ってたたずむ人のシーンをみかけます。実際、私も真似事をして座ってはみましたが、下は断崖絶壁なので少し危険ではないかと思いました。皆さんも是非ご注意頂いた方がいいかなと思います。ただ岩場に座って遠くの絶景を見ていると時間がたつのも忘れるほどに癒されること間違いなしです。
修験道跡
城岩七岩の奇岩群をみながらさらに歩道を歩いていくと、これも巨大な岩に囲まれた広場にでます。ここは「修験道跡」と呼ばれて、以前は多くの人々が集まる祭りの広場だったのではないかと言われています。そして広場を囲むように、屏風岩、男岩、女岩、毘沙門天岩という岩々がそびえ立っています。ここでは大きな岩に手と頭をつけて、目を閉じて瞑想します。
なお近くには「胎内くぐり」というここを通り抜けることで、生まれ変わることができるという場所もあります。
峯の浦本院跡
こうして峯の浦と垂水遺跡を周回して山寺霊園側のゲート近くになると周辺には五輪塔や薬師堂跡、中堂跡などがあり、そして峯の浦の本院跡に到達します。既に本院跡はなくなっていますが、かつては阿弥陀如来が祀られていました。またこの辺りは先ほどの修験道と同じように平地になっているところもあり、ひょっとしてこのあたりはかつては建物があったのでは思われます。また平成22年から始まった発掘調査により縄文時代の陶器なども見つかっているようです。こういったところから、むしろ峯の浦こそが「裏」ではなく「表」の山寺だったのではないかという空想が沸いてきます。
こうして約1時間20分の周遊を終え、山寺霊園側のゲートに辿りました。
皆さんも是非この隠れたパワースポットを訪れてみては如何でしょうか。もし皆さんが出向かれるのであれば、実際に歩いた時の経験から、ささやかではありますが以下アドバイスさせて頂きます。
①散歩道とはいえ山寺のように整備された道ではありません。それなりの山道もあるので、ハイヒールでの徒歩は無理と思われます。実際、私が出向いた時もハイヒールを履いた女性が悪戦苦闘して岩を登っていました。
②峯の浦への入口としては、「千手院観音堂の境内から入るルート」と「山寺霊園から入るルート」があるようですが、山寺霊園から入るルートは入口が少しわかりづらく、「千手院観音堂」から入るコースをお勧めします。
③私の場合、途中で2回ほど道を間違えてしまい、誤って下ってしまった。後でよく道標を見ると間違えることはないのすが、一応、注意が必要と思われます。
④道中至るところに、「野生動物に注意」、「猿注意」が掲示されています。一応の注意が必要と思われます。
<参考情報>
①是非、立ち寄りたい周辺のお勧めスポット(もちろん鉄道とバスと徒歩で)
対面石と対面堂
慈覚大師円仁はこの地を霊域とするため、当時地主だった漁師に殺生をやめてほしいという交渉に行った。その時に対峙した場所。JR山寺駅より徒歩7分
山寺ホテル跡
旧山形ホテルは1916年に建てられたが2007年に閉館、その後2012年「やまがたレトロ舘 旧山形ホテル」として再オープン。ペン画など大正・昭和の香りを残す建物として訪れる価値あり。山寺駅から徒歩1分
②峯の浦・垂水遺跡