山形新幹線 ~驚異のダイヤ編成~ 

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山形新幹線E3系(東京駅にて)
山形新幹線E3系(東京駅にて)

 私は自称、鉄道ファンではありますが、世の中に言われている「撮り鉄」「乗り鉄」「呑み鉄(六角精児)」・・といろいろある中で、「撮り鉄」ではないことは確かです。なぜならあれほど利用した急行八甲田(別項ご参照頂ければ幸いです)の写真が1枚もなく、ようやく最近になって鉄道の写真を撮るようになったぐらいですから。あえて言うなら「乗り鉄」だとは思いますが、特にダイヤ編成に大変に興味があります。その意味で造語ではありますが「ダイヤ鉄」と称しておきましょう。

 特に最近、山形県に行く機会が多く、その時に使用している山形新幹線の奇跡とも思えるダイヤ編成に毎回驚かされています。

 ただ最初にお断りしないといけません。今回は少しマニアックな内容です。鉄道に関心のない方は全くつまらない内容です。いえ鉄道に詳しい方にとっては、逆に全く当たり前の話かもしれません。それでも鉄道を愛する者として、鉄道ダイヤ編成に携わっている皆さんへ敬意を表せざるを得ないのです。

東北新幹線との連結部
奥羽線ダイヤ(1983年日本交通公社時刻表より)

特急つばさ号の思い出

 特急つばさは、東京と山形県秋田県を結ぶ列車として、1961年に開業しました。1982年に東北新幹線が開業した後は一部の列車で福島~秋田を結ぶ列車に変更となりましたが、山形新幹線が開業する1992年6月まで上野発着の列車も残されていました。

 秋田や青森に出向いた際の帰りに、夜行列車を使わない時は、特急つばさ号を愛用していました。左が当時の時刻表の一部です。昼間の貴重な時間帯にのんびりと上野まで乗車したものです。特に秋田県の湯沢駅と山形県の新庄駅間の県境あたりは、かつてどこにもあった日本の原風景を望むことができたため、特にお気に入りの区間でした。本ブログでも何回かご紹介させてもらいました。また米沢駅を過ぎると牛肉弁当が車両販売されるので、それを食べるのも楽しみにしていました。ただ大変に残念ながら「撮り鉄」ではないので特急つばさの写真はありません。

 

そして山形新幹線へ

 山形新幹線は、1992年に山形県で国体(べにばな国体)が開催されることが決定されたことを受けて整備されました。従来型のフル規格での新幹線ではなく、新幹線直通特急(ミニ新幹線)として計画されました。分類上は在来線列車の扱いになるようです。当初は仙山線経由のルートも検討されたようですが、最終的には福島駅で東北新幹線から分岐して米沢駅を経由して山形駅に向かうルートで決定されました。そしてべにばな国体の直前、1992年7月1日、山形新幹線は開業しました。沿線は奥羽山脈を越える急勾配の区間もあり、最高速度は130km/hで走行しています。その後、新庄駅まで延伸することが決定され、1999年12月4日、山形新幹線は新庄駅まで延伸開業しました。 

代行バス(1999年北山形駅にて)
代行バス(1999年北山形駅にて)

  私はこのミニ新幹線開業の建設段階で何度か訪れました。最初が1990年の12月で、その時は福島~山形間の山形新幹線の工事の真っ最中でした。普通列車を走らせながら新幹線仕様である標準軌化工事を行っており、特に豪雪地帯の福島~米沢間の工事は難航を極めたようです。私が訪れた時も大雪が降っており、その中を普通列車の通過の合間を縫って工事が行われていました。2度目に訪れたのが1999年8月、今度は新庄まで延伸する工事の際で、その時は代行バスが運航されていました。

 このように時々に応じて訪れた山形新幹線ですが、自称「ダイヤ鉄」としては、以下のような驚異とも思えるダイヤ編成に非常に興味を持っております。繰り返しとなります。鉄道に詳しい方にとっては、全く当然のことかもしれません。それでも鉄道を愛する者として、鉄道ダイヤの編成に携わっている方に敬意を表せざるを得ないのです。

ダイヤ編成の驚異その1:山形新幹線の多くの区間が単線である

 特に米沢~新庄間のほとんどの区間が単線なのです。いくら在来線特急の扱いとはいえ、新幹線が単線で走行しているというのは驚きとしかいいようがありません。そのため駅で対抗列車の山形新幹線の待ち合わせをすることはもちろん、ダイヤによっては山形新幹線が対抗列車である普通列車の待ち合わせをすることもあります。新幹線が普通列車の待ち合わせをするなど、極めてユニークな光景だと思いませんか。

 

ダイヤ編成の驚異その2:福島駅での上り線の連結は下り線を平面交差して行われている

福島駅新幹線ホーム(丸数字はホーム)
福島駅新幹線ホーム(丸数字はホーム)※上りは2度にわたり下り線を平面交差する必要がある!

  鉄道ファンの方であれば周知の話のようですが、福島駅での連結・切り離しは、東北新幹線と奥羽本線を結ぶ連絡線のホームが下り側に1本しかないため、上り・下りともに下り用のホームである14番線のみで行われています。そのため、下りの切り離しは問題ないのですが、上りの連結の際は、仙台からきた東北新幹線は、いったん下り線を平面交差して14番線に入線して山形新幹線と連結が行われます。そして山形新幹線と連結した後は、再び下り線を平面交差して上り線に合流しているのです(上図ご参照ください)。すなわち300km/h近い速度で通過する可能性のある下り線を2度に渡り平面交差しているのです。短時間とはいえ、上りの新幹線が下り線路を逆走するのです。これはもはや驚異を通りこして恐怖でもあります。また上り下りの通過列車がある中、このような平面交差が出来る時間帯も制限されているはずです。さらに山形新幹線の切り離しと連結を行うホームがある瞬間では14番線しかないのです。もし上りホームにも連結用のホームがあれば、山形新幹線のダイヤ編成にも余裕が生まれるに違いありません。

連結部
連結部

ダイヤ編成の驚異その3:東京駅では同じ車体で折り返し運転が行われている 

 これも当たり前の風景ですが、私にとっては驚異です。ご存知の通り、東京駅のJR東日本の新幹線ホームは、2面4線の構造になっています。この4つしかないホームで北陸新幹線、上越新幹線、東北新幹線(山形新幹線、秋田新幹線、北海道新幹線)が発着しているのです。それだけでもダイヤ編成が大変であると想像がつくのですが、さらにそれぞれ独自の車体(こまち号、つばさ号、かがやき、とき、やまびこ・・)で走行しているのです。これは驚異でしかありません。東海道新幹線のように、もしすべての新幹線が同じ車体であれば、ダイヤに遅れが発生した時に、当初予定とは違う車両で運行することも可能ですが、つばさ号(山形新幹線)が遅れたからといって、こまち号(秋田新幹線)の車体で山形新幹線を走らせるわけにはいきません。それぞれの新幹線に応じて車体が運行されているのです。

 

ダイヤ編成の驚異その4:同じ線路上には在来線も走行している

 これはミニ新幹線の宿命でもありますが、山形新幹線の線路には山形新幹線だけではなく、奥羽本線、仙山線、左沢線などの在来線が走行しています。それでなくても窮屈な単線区間上を山形新幹線に加えて在来線も走行しているのは驚きです。

山形新幹線(米沢駅にて)
米沢駅にて※上りも下りも同じホームに停車

ダイヤ編成その他の驚異

 上記以外にも山形新幹線に乗車するたびに驚きのシーンに出くわすことがあります。先日発見したのは、米沢駅では同じホームで上り下りの新幹線が停車していることです。これは改札に近いホームで山形新幹線が乗降できるという意味で便利なのですが、よく考えてみれば反対側の山形新幹線が走行していないというダイヤ編成上の制限があるずです。すなわち米沢駅では山形新幹線同士の待ち合わせをしないという工夫が必要です。

 そしてこれらの驚異とも思えるダイヤ編成は、1つ1つだけをクリアするだけではなく、すべてを一斉に実現しているところに驚異を通りこして奇跡とも思えてくるのです。もし単線区間で反対路線の遅れが生じたら全体に遅れが生じることになり、そうなれば福島駅での連結に遅れが生じることになり、そうなると東京駅での車両編成に狂いが生じることになり・・といった具合に、綿密に組まれているダイヤが狂うことになります。前述の驚異を一斉に実現するようなダイヤ編成に携わっている方への敬意を感じざるをえません。

福島駅工事イメージ(上り連結持の平面交差が不要になる)

 なお本稿を作成するにあたり、いろいろ調査をしていく中で、上記の「驚異2」については、福島駅の新幹線上りホーム(⑪番線)に奥羽線・山形からの新幹線を連結させるための新しいアプローチ線ができるようです。これにより上りの⑪番線で仙台からの東北新幹線と連結を行えるようになり、上り連結時の下り線の平面交差が不要になります。

 やはり驚異2がダイヤ編成上の大きな障害になっているようでした。2026年度に完成見込みとのことですが、既存の新幹線の高架下の狭い空間にアプローチ線を作る必要があるので、結構な難工事のようです。ただこれが実現できるとダイヤ編成に余裕が出来て、山形新幹線の便数が増えることが期待できます。

 ちなみに2024年の春に信夫山から福島駅の工事の状況を撮影しました。下の写真をご覧ください。右の奥羽線から高架の下をくぐり、福島駅の上り線に向かう上り列車のアプローチ線(a)の骨格は既にできているようでした。

信夫山から見た福島駅の山形新幹線工事状況
信夫山から見た福島駅の山形新幹線工事状況